予知能力王座決定戦

サイトウ
     

 

 

「さて、お待ちかね『ザ・王座決定戦』の時間がやってまいりました」

 司会の古舘四知郎がステージ右手から現れた。アシスタントの広末洋子も続いて登場。

「さて、王座に輝いた方には、なんと賞金百万円と地球の裏までひとっ飛びのブラジル七日間の旅が贈られます」

 カメラが古館と広末の顔をアップに映した。

「さて、今日は世紀の超能力対決です。それも王座決定ファイナルラウンドです。洋子ちゃん今日は見逃せませんね」

「ええ、わたしもどんな対決がまっているのか楽しみです」

 広末も隣でにっこりする。

「それでは予選を勝ち抜いた真の実力者に、さっそく登場してもらいましょう。どうぞ」

 照明が暗くなり、パイプオルガンの荘厳な音楽が響いてきた。

 会場中央奥よりドライアイスのスモークが流れてくる。その中に人影が二つ現れた。       

「おっと、この二人が今世紀最大と呼ばれる予知能力者です」

 二人は中央に進み出た。一人の少年と白髪の老人だった。

 広末がマイクを向けた。

「お名前をどうぞ」

 長身、ニキビ顔の少年が言った。

「サトリ慎吾です」

 老人がしわがれた声をだした。

「百合解等野助じゃ」

 古館は二人に今の心境をいくつか質問した。そして次に進めた。

「それでは第一ラウンドと第二ラウンドの白熱した戦いをダイジェストで見てみましょう。

 画面が変わった。日本庭園の見える座敷。カメラがパンする。

 古舘がしゃべりながら登場した。

 そこには将棋盤が用意されていた。

 広末がわざとらしく驚く。

「えーっ、将棋で対決するんですか」

 古舘がもったいぶって言った。

「将棋と言えば先まで読むのが道理。相手の動きを多く読んだ方が勝ちです」

 サトリ慎吾と百合解等野助は紋付袴姿で将棋盤んをはさんで向かい合った。

「持ち時間は一時間どうぞ」

 先手は百合だった。

 百合は盤をにらんだ。じっと考えこむ

 画面の下にテロップが出た。二人の動きがほとんど無いので早送りしています。と書かれている。

 百合は歩を動かした。

「おーっと、百合選手歩を動かしました。これは棒銀の為かそれとも振り飛車か、はたまた矢倉か穴ぐまか」

 古館は騒ぐがまったく二人に動きは無い。

 また画面が早送りになった。サトリが動いた。

「参りました」

 サトリは自分から駒を投げた。

「おーっと、サトリ選手負けを認めました。一度も駒を動かすことなく破れました」

 サトリ慎吾はがっくりと肩を落としていた。

「さっそく破れたサトリ選手に聞いてみましょう」

 古館はサトリ選手にマイクを向けた。

「サトリ選手、それほど百合選手はあなたの動きを予知していたのですか?」

 サトリ慎吾は恥ずかしそうに言った。

「いえ、僕将棋やったことないんです」

 

 

「それでは第二ランンドです」

 また画面が変わった。今度は運動場だった。二人はトレーニングウェア姿だった。

「今度の対決は二人に五十メートル走ってもらいます。そしてタイムを計ります」

「えっ、それじゃただのかけっこじゃないですか」

「ちがうのだよ、洋子ちゃん」

 古館はかぶりを振った。

「走る前に自分のタイムを予知してもらう」

「えーっ」

「走った後に出たタイムと合っているかどうか、当然近い方が勝ちとする」

「なんかすごい対決ですね」

「それでは二人にタイムを予知してもらいましょう」

 二人は紙に時間を書いた。

「えーとサトリ慎吾さんが七秒九。百合気等野助さんが十八秒とでました」

 二人はスタートラインについた。

「さてどうなるでしょうか、いよいよスタートです」

「百合さんの十八秒ってのもなんかすごいタイムですがはたして予知通りいくのでしょうか?」

「今、スタートしました。おっ、予想通りサトリ選手速い、このままだと六秒台が出そうです。今ゴールしました。タイムが楽しみです。一方百合選手はまだスタートラインを少し過ぎたばかりです。あっ、百合選手転倒しました。どこか強打したようです立てません。おっとーっ、リタイアです」

 勝負はサトリの勝ちとなった。

「百合選手どうしました」

「うーん、途中で転ばなけれは予知タイム通りだったのに」

 

 画面が再びスタジオに戻った。

 古館が言った。

「と、今までの戦いはこんな具合でした」

 あっけにとられたような広末洋子の顔が映った。

「なんかとてつもない勝負でしたね」

「一勝一敗のままついに最終ラウンドとなりました」

「で、今日はどんな対決で決着をつけるのですか。

「これですっ」

 看板が降りてきた。そこには大きく、明日の新聞の三面記事を大きく飾る事件は?≠ニ書かれていた。

「この事件を二人に占ってもらおうというわけですね」

「そうです、これこそ究極の対決といえるでしょう。今二人に予知してもらったことが、これから明日の新聞の三面を飾ることが本当に起こるでしょうか」

 古館四知郎は唾を飛ばしてしゃべった。

 二人は目を閉じ瞑想したあと何か書き始めた。

 古館が二人の紙をカメラに向けてと言おうとしたときスタジオで爆発が起きた。爆音と炎に包まれスタジオはパニックに陥った。頭

上の照明が古館目がけて落ちてきた。骨の砕ける嫌な音が響き視界が真っ暗になった。

 古館の頭に三面記事のトップを飾る黒い枠で囲まれた自分の写真が浮かんだ。

 

 

「スタジオでガス爆発。死傷者多数の大惨事!」

 古館四知郎は予知をやめた。

 額を冷たい汗が流れた。自分が災難に巻き込まれるのか。

 彼は、あわててテレビ局に電話をかけた。

「ああ、私、古館だ。今日収録予定の例の王座決定戦だがちょっと遅れるんだ・・・・・あ、ああ、どうしても駄目なんだ。そう、ほんの少しだけだ。私は遅れるが先にほかの所の収録を進めといてくれ。あっ、ああ、すまんな」

 古館はソファーにどっかり座るとため息をついた。

「あんなアホウな対決番組の為にこっちの命が危なくなったんじゃかなわんぜ」

 

 

おわり

 

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