サイトウ
聡史は昨夜から頭痛が続いていた。
朝になっても頭痛は治まらなかった。彼は近くの総合病院に行くことにした。
玄関から入るとすでに病院は順番待ちの人でごった返していた。初めてくる病院なので、聡史はどうしていいかわからずまず総合案内という所に行った。
案内と書かれた看板の下に三十歳くらいの女性がいた。その前では何人かの人が順番を待っていた。聡史もその後ろに並んだ。
しばらくして彼の順番になった。
「あのー初めてなんですけど」
聡史は女性に声をかけた。
「それでは保険証を出してください」
聡史は何年振りかで保険証を使った。
その女性は後ろのコンピューターに何かインプットしている女性に書類を回した。そして何か紙を出してきた。
「この用紙に必要事項を記入してください。あちらのテーブルで」
聡史はそのテーブルで用紙に書込始めた。
用紙は何科にかかりたいのかと、これまで重い病気をしたことがあるか、薬を飲んでアレルギーは出たかなどのアンケートになっていた。記入のおわった聡史はまた女性の所に持っていった。
「では少々お待ち下さい」
聡史はそばのイスに腰掛けて待った。
インフルエンザが流行っているのだろうか、それとも月曜日のせいか、とにかく混雑しているようだ。
「高田聡史さん」
「はい」
名前を呼ばれて聡史は案内に行った。
「はい、これが診察カードです」
カードが手渡された。
「この用紙を持って内科に行ってください」
聡史はその用紙を持って内科に向かった。
内科もすごい人だかりだった。窓口にさっきの用紙を入れた。この分ではいつかかれるのか検討もつかなかった。さまざまな人が待っていた。やはり高齢者が多かった。
とにかく聡史は待った。頭は相変わらず痛い。本を読む気にもならない。 聡史は不安になった。
「もしかして俺のこと忘れているんじゃないか?」
聡史は窓口で聞いてみようかと思った。その時名前を呼ばれた。
彼はやっと診察してもらえるのかと期待してそちらに行った。
「高田聡史さんですね」
「はい」
「ではこちらでお熱を計ってください、それと血圧測定もしていって下さい。おわったら待合室で待っていて下さい」
「・・・・・・はい」
聡史は熱と血圧を計ってまたもとの席についた。
じっと自分の番がくるのを待った。やっと呼ばれた。診察室に彼は入った。
看護婦が言った。ここで服を脱いで下さい。彼はカーテンの前で上着を脱いだ。医者の声がした。
「どうしました」
「じつは・・・・・」
聡史は症状を話した。医者は何度か相づちを打っていた。
「それではいくつか検査します。外で待っていて下さい」
聡史は診察室を出た。看護婦がやってきてあちこちレントゲンとか脳波とか連れていかれた。そのたびに何回も待たされた。あまり待たされすぎて今が何時なのか聡史はわからなくなっていた。
ようやく検査を終え元の内科に戻ってきた。じっと待っていると名前を呼ばれた。
聡史は診察室に入った。
医師はメガネを拭いてレントゲン写真を眺めていた。次に手元のデータを無言のままじっと見つめた。
「先生どんな具合でしょう」
聡史は心配になって聞いた。
「うーん、とりあえず様子を見ましょう」
「はっ?」
「これといって悪そうな箇所は見当りませんな」
「ですが頭痛が」
「痛み止めを出しときますから飲んでみて良くならない場合はまた来て下さい」
「・・・・・・はあ」
聡史は診察室を出た。
会計で散々待たされて、金を払った。
「高田聡史さん」
「はぁ」
「お薬が出てますからもらっていって下さい」
「・・・・・・はぁ」
聡史は薬の引換券を持って受け取り場所の前のイスに座った。今まで待たされて結局これといった治療はされなかった。
「薬をもらうのに時間ばっかりかかりやがって」
彼は痛みが遠退いたのに気づいた。そのかわりなんだか体の動きが重くなってきたような気がした。
「・・・あれっ、どうしたんだろう・・・・・・」
聡史は体中の感覚が無くなっていくのを感じた。それでも、そのまま待ち続けた。
「あれ、こんなとこに彫刻置いたの誰だい?」
「きっと誰かのいたずらだよ」
病院の待合室に服を着た彫刻が置いてあった。夜、見回りにきた警備員らが発見した。
「これ、なんの格好しているのだろう」
「うーん、考える人の真似で頭の痛い人≠ネんじゃないの」
「しかし、洋服着せてこんなとこに置くなんて何考えてるのかな」 若い警備員が言った。
「前衛芸術ってのはこういう理解出来ないのがいいらしいぜ」
年配の警備員が肩をすくめた。
「わざわざ病院の待合室でか?」
「絶対理解不能だろ」
「まあいいや、とにかく物置にでもいれとこう」
「ああ、なんだか重そうだな」
「台車で運ぼう」
警備員らは石化した聡史を台車に乗せて運んでいった。
聡史は今だに物置で自分の名が呼ばれるのを待っている。
おわり