彼らの目的

                            サイトウ

 

 夜。

 拓郎たちは林の中を歩いていた。

「おい、拓郎。本当にUFOを見たのかよ」

 浩司が同じ質問を繰り返した。

「ああ、この丘の上を円盤型のUFOがジグザグに飛行していたんだよ」

 拓郎も何回目かの同じ答えをした。

 好奇心丸出しの友美が一番後ろから言った。

「どうでもいいけど わたし塾サボッてまでついてきたんだから、ただの見間違えでした、なんて言わないんでしょうね」

 先頭を歩く拓郎が振り向いた。   

「そんなこと言って無理やりついてきたのは誰だよ」

「なによ、男のくせに恐いとかいってたじゃない」

 細い道を彼らは一列になって歩いた。ほどなく林を抜け丘に出た。

 一面に草原が続いている。風はなく蒸し暑かった。虫の鳴声がとぎれとぎれに聞こえてくる。

「ねえ、拓郎。このへんで待ってればいいの?」

「うん、あんまり草原の真ん中に行くと隠れるところがないからこのへんでいいよ」

 三人は木の下でUFOの来るのをじっと待った。

 月が出ていないせいか星がまたたいているのがよく見える。もっとも真冬と違って空気の透明度が低いのでその数は少なかった。

「チッ、蚊に刺された」

 浩司が肘のあたりをボリボリ掻いた。

「わたし、退屈だなあ」

 友美はじっとしているのが苦手だった。うろうろとその辺をうろついている。

 浩司は飽きてきたようだった。

「拓郎、まだかよ」

「うん、もうそろそろだと思うんだけど・・・・・・」

 拓郎は首が痛くなるのも構わずに空をじっと見ていた。

 いくらか風が出てきた。何箇所も蚊に刺された浩司はいらいらしていた。

「おい、拓郎。なんにも起きないぞ。俺もう帰る」

「そんなこと言うなよ、もうちょっと待ってくれ」

 拓郎は引き止めた。

「わたしも飽きたわ、そろそろ帰らないと親がうるさいし」

 二人は立ち上がった。

「絶対現れるから、もう少し。うーん、あと五分でいいから」

 浩司と友美は顔を見合わせた。

 友美が言った。

「わかったわ、もう少し待ってあげる。その代わり何もおこらなかったら、ロッテリアでマックシェイクおごってよ」

「マックシェイクはマクドナルドだろ?」

 拓郎が聞き返した。

「いいえ、わたしらロッテリアに行くの。そこで拓郎、あんたがマックシェイクを買ってくるのよ」

 拓郎は困ったような顔をした。

「それって、もしかしてイヤミ?」

「まあ、いいじゃないの。わたしたち友だちよ」

「・・・・・・わかったよ」

 浩司と友美は木の下にまた腰を降ろした。

 拓郎は時計と空を何度も交互に見ていた。

「あと一分よ」

 無常に時間は過ぎた。

 浩司は立ち上がった。尻をパタパタ叩いてホコリを払った。

「残念でした。拓郎、帰るぞ」

「そう、ロッテリアに直行よ」

 友美が大きく伸びをした。

 拓郎は空を見上げたままだった。

「あきらめが悪いぞ」

 浩司は拓郎と同じように空を見上げて、はっと息を飲んだ。

 星の一つが動いている。

「流れ星だよな・・・・」

 浩司は言いかけて凍り付いた。その星はジグザクに動いていた。そしてこっちに向かってきた。

 拓郎が冷静な口調で言った。

「UFOだ」

 点滅しながらみるみる近付いてきた。

「なにしてんのよ、早く隠れないと見つかっちゃうわよ」

 友美の声に我に返った二人はあわてて木の陰に引っ込んだ。

「おっ、おい。本当に来たぞ」

「あ、ああ」

 光る物体は丘の上空で静止した。無数の光線を夜空に向けて発し点滅を繰り返した。

 光っているのでその形状ははっきりしなかったが、それが飛行機や飛行船のたぐいでないことは一目でわかった。 浩司の声は震えていた。

「どっ、どうすんだよ」

「ここで、様子を見ましょう」

 友美は冷静だった。

「そんなこと言わないで逃げようぜ」

「だめよ、うまくいけば宇宙人を見られるわ、それに」

 友美は手提げバッグからキャラクターデザインのカメラを取り出した。

「これで、宇宙人の写真をゲットするのよ」

「そ、そんな」

「わたしは一躍有名人」

「なんて大胆な・・・・・・」

 浩司はあきれた。

「しっ、もう一台飛んできたぞ」

 拓郎が二人の会話をさえぎった。

「えっ?」

 今度は北の空から光る物体が急速に接近してきた。丘の上空で静止しているUFOのそばを一周すると、静かに着陸を始めた。

「見ろっ、降り始めた」

 草原に降りたUFOは光を弱めた。タマゴのような形状をしていた。その下側からスポットライトのように光が照射された。そこに人影のようなものが現れた。

「おい、あれは宇宙人では?」

「一体なにをするつもりなんだろう」

「やっぱり地球の調査が目的なんじゃないの」

 また空を見ていた拓郎が言った。

「みろっ、また、やってきたぞ。それもたくさん」

「なんだと?」

 今度も同じように急速に接近してくると、次々と草原に着陸を始めた。UFOの形状もハマキ型や紡錘形、ひょうたんみたいなものなどさまざまだった。

 宇宙人たちはそれぞれ正方形のシートのようなものを地面に広げるとめいめいに何か並べ始めた。

「あれも、調査かい?」

「うーん、なにしてんのかしら?」

 拓郎があきれた声でいった。

「また来たぞ、それもいっぱい」

 こんどは小型のUFOが大挙してやってきた。草原のやや離れた場所に並んで止め始めた。

 先にやってきた宇宙人の広げたシートの方に向かって移動していく。そしてその回りをうろうろと歩きまわったり、何事か話したりしているようだ。

 あまりの異様な出来事に浩司と友美は声も出なかった。

 その様子をじっと見ていた拓郎は言った。

「こんなに宇宙人が来るなんて」

 浩司はやっと声を出した。

「一体何が始まろうとしているんだ?」

「そうよ、これはきっと宇宙人の地球調査」

 拓郎は低い声で言った。

「侵略だ」」

「なんだって?」

「いままでにも、何度も地球に飛来していたのに人間から隠れようとしていたのは、人類を抹殺するのが目的だったからだ」

「えええっ!」

 拓郎は無表情で言葉を続けた。

「自然破壊や戦争など我々人類はいつになっても止めようとしないから、ついに彼らは怒ったんだ」

「・・・・・・」

「審判の日が来たんだ」

 拓郎たちはあまりの恐怖に立ちつくすばかりだった。

 

 

「へい、いらっしゃい」 

 アルファケンタウリ星人がやってきた。

「ねえちゃん、あそこの木の下で三人の地球人がこっちをよう見とるで。なんか欲しいんとちゃうか」

「あんさん、せっかく地球までフリーマーケット出展しにきたんどっせ。そんなんほっときなはれ」

 M78星雲から来たウルトラの母が古着を並べ直しながらいった。

「それより、このブラックホール土鍋。どうでっせ。べんきょうしときまっせ」

「それより、ほれ、これみてみ、白鳥座星人から買うたナイキのジョーダンモデル。掘出物やろ」

「どれ、見せてみ・・・・・・あんさん、こらまがい物やがな」

「なんやて!」

「ここんとこにメイド・イン・イスカンダル≠チてはいってるやないけ」

「うっ、しもた!やられた」

 さらに宇宙人は増え、にぎやかな声があふれてきた。

「アンドロメダたこやき、うまいよ。百円でどや!」 

「タキオンドリンク、一杯どうでっか!」

 地球人の心配をよそに宇宙は平和だった。

 草原は゛第四回銀河系商店街協賛フリーマーケット祭り゛でおおいに盛り上がっていたのだった。

                        

 

おわり

 

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