黒猫の怨念
サイトウ
ある朝、新聞配達の少年は町外れの一軒屋にいつものように朝刊を配っていた。
何気なく庭に入っていった少年は人が倒れているのに気づいた。いつも朝体操している老人だった。
「あの、どうしました?」
少年はあわてて近寄っていった。脳卒中かも知れないと思ったのだ。だが老人は苦痛の表情で顔から血を流して死んでいた。
「うわーっ、死んでいる!」
少年の大声であたりは騒然となり蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。たちまたすごい人だかりができた。
「おい、救急車は呼んだか?」
「それより、警察に早くしらせろ!これは事件だ」
騒ぎの中で野次馬の一人が死体の様子を見て言った。
「この傷をみろ!」
老人の胸と首の部分に鋭い爪の後が生々しく残されていた。
「なんだこの傷は?」
「まるで爪で切り裂かれたような・・・・・・」
「この傷のせいで出血多量になって死んだようだな」
別な男が言った。
「おい、ここに何か書いてあるぞ」
老人が死ぬ間際に書いたと思われる文字が地面に残されていた。
「クロ=E・・・・・。なんだ?」
「あとに何か書こうとして息絶えたようだ」
「一体何が起こったのだろう」
野次馬たちは不安になった。
急に目を血走らせた浮浪者風の男が叫んだ。
「俺は見たんだ!」
みんなその男を見た。男は続けた。
「この老人はきのう公園で黒猫をつえで叩いたんだ」
「えっ」
「なにもしていない黒猫を捕まえて袋叩きにしたんだ。そのうえ川に放り投げた・・・・・・・」
「・・・・・」
「その黒猫のたたりだ」
浮浪者はますます目を血走らせ口から泡を飛ばしてしゃべった。
「じゃこのダイイングメッセージのクロ≠チてのは」
「黒猫のこと・・・・・・」
「まさか、そんな」
その場の全員があまりの異常な事態に戦慄した。
無残な老人の死体を取り囲んだ野次馬の一人が凍り付いた。
「おい、どうした」
「ああああ、あれっ」
男はがたがた震えだした。
「?」
男の示す方向を見て今度は全員が恐怖で震えあがった。
屋根の上から真っ黒い生き物が、らんらんと目を光らせこっちを見ていた。
「わっ、出た。黒猫!」
「ばっ、化け猫だ」
「黒猫をいじめたからだ」
「黒猫のたたりだーっ」
「黒猫の怨念だ」
「黒猫様の呪いじゃー」
野次馬達は口々に叫んだ。
そいつは屋根の上から音もなく地面に飛び降りた。そして恐怖で立ちすくむ野次馬たちの前まできた。
そいつは言った。
「あのー、俺、クロネコじゃなくてクロヒョウですけど。間違えちゃだめよ」
クロヒョウは塀を飛び越えどこかへ去っていった。
おわり